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家具が生み出すインテリアランドスケープ「CFP-3」 (建築文化 2003年6月号)  Jun 01, 2003

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家具を意味する' furniture 'という言葉は furnishという動詞を語源に持つ。この動詞の第
一義は「〜を供給する」である。つまり家具は空間というハードに対して、インストール
されるべきソフトという位置付けとなる。
ならば、家具という名の、機能を内蔵し行為を誘発(あるいは支援)するいくつかのオブ
ジェクトを、限られた空間の中にそれぞれ注意深くインストールしていくことで、ある方
向性を持ったインテリアランドスケープを構築していこうとする手法が成立するはずであ
る。

そしてこの手法は、周辺環境の本来のコンテクストとは断絶され、経済的側面のみによっ
て査定されて時間単位で切り売りされている商品としての賃貸空間に対して、もう一度新
たな文脈と方向性を上書きし得るものだろうと思っている。
多くの場合、商業的インテリアデザインにおいては(特に都市の雑居ビルにレストランや
バーなどをつくる場合)、周辺環境のコンテクストとは切り離された建物内の一室に、さ
らに別世界を構築すべく入れ子状の箱をデザインする傾向がある。

しかし今回私は、コンテクストと断絶したスケルトンに対してさらに断絶したインフィル
を挿入するというインテリアデザイン的な手法ではなく、賃貸空間が提供するごくありふ
れた表皮をサイトとして受け入れ、読み込み、そこで新たに展開される人間のアクティヴ
ィティに対して、適切であろう必要かつ十分な装置を供給( furnish )するというランド
スケープデザイン的な手法をあえて選択している。
これは、日本の平均的な賃貸空間に対して、今回のようにオフィス空間や住空間などを提
案する場合においては、エコロジー/省資源の観点から言っても、今後もっと研究される
べき有効なメソッドのひとつなのではないだろうか。

CFP ( Customized furnishing project )は、私が ’01年に行った自らの自宅兼事務所の
改装を出発として、 ’02年のワンルームマンション内のアトリエ( CFP-2 )、そして今
回のオフィスのプロジェクト( CFP-3 )へ引き継がれ試みられている。

CFP-2では、四谷のワンルームマンションの一室にグラフィックデザイナーのアトリエを
つくった。現状復帰を前提とした賃貸空間を家具によってカスタマイズする提案の一例で
ある。床、壁などには一切傷を付けずに、現場寸法にぴったり合わせたオリジナルの家具
を配することで、求められた機能の事務所空間を構成している。
たとえば、既存のミニキッチンを扉の中に収納してしまったり、既存の窓枠と寸法を合わ
せた棚で換気の機能を損ねないようにしながら、ディスプレイの要所としている。一方、
撤去したものも全て廃棄せずに保存/再利用を試みている。床のタイルカーペットは、剥
がして積み重ね、椅子として再構築。天井の蛍光灯も撤去した後、棚の上に移設して間接
照明とした。コストを抑えるために職人の手は借りず、全ての造作はセルフビルドで行っ
た。

そして今回のCPF-3は、銀座の事務所ビルのワンフロアを、広告/グラフィックデザイン
会社のためのオフィスに改装するものであった。
CPF-1、CPF-2と同様に賃貸スペースであり、将来の現状復帰工事を視野に入れた計画。
部屋は白くきれいだが、他聞に漏れず無機質な石油製品の仕上げで覆われていた。しかし
南側の日当りの良い大きな開口が特徴的で、目の前の高速道路の向こうには汐留再開発の
ビル群が聳えている。

このサイトの条件とコストの制約から、全面改装を前提とせず、天井高の2分の1までの
造作とする明快なコンセプトとデザインとした。その結果生まれた腰壁はオフィスのパー
ティションとしても最適な高さであり、ワーカーの視界の制限による集中力のコントロー
ルと同時に、窓から侵入する過剰な外光の制御や、本棚との組み合わせによって生まれる
天板上のスペースを提供する。
また、作業内容に合わせて3段階に設定したデスク天板のレベル、個人使用のMOやCD、
各種ファイルを保管する間仕切り棚、ポスターなどの大判の紙も収納できる可動の作業台、
ピンナップにも使用可能な跳ね上げ式の壁、等々、機能を複合させた「家具」を空間に注
意深くインストールしており、結果、ある意思を持ったインテリアランドスケープが構築
できたように思う。

大地が時によって変形していくように、今後クライアントの使用によって馴染み、変化し、
より愛着を持ってもらえるようになることを期待している。


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