木漏れ陽という言葉がある。「茂る枝葉の間を漏れさしてくる陽光のこと」だけれど、あ
の優しさ、清々しさは何だろう。誰もがふとした瞬間に自然から受ける小さな感動の一つ
だと思う。この感覚を建築空間に装置として挿入し再現できるかもしれない。そんな可能
性をこのベントルーチェ(現商品名:エヌベント)という商品の開発に携わって強く感じ
た。
5年前、富山県のあるコンペに参加したことから、地元のいくつかの企業と関わりを持つ
ようになった。もともとアルミ建材や鋳造などの産業が盛んで技術を蓄積してきた地場で
は、今までの受け身の受注体制ではなく、自ら商品の発信をするべく積極的にデザイナー
を起用して、新しい動きを始めている。そんな会社の一つが今回のコラボレーションの相
手、ライルだ。
すでに屋内用の木製ルーバーをリリースしていた同社は、室内外の環境調整機能に着目し
より効果的な遮光・遮熱や意匠的な面からも高まっている屋外利用のニーズを受けて開発
を開始。求められる機能と天然木の素材を活かしたシンプルデザインの両方を追求した。
課題であった耐久性能も富山県林業技術センターによる暴露実験の情報協力を得て、最適
な材種、塗料の選定に目処が立った。
現行の室内用ベントのパンフレットの言葉に、「季節の移り変わりを風の香りで感じるこ
とがあるように、人は、自然の微妙な変化を肌で感じ取っている…」とあるけれど、確か
にそうだ。人間のこのデリケートな感覚に応えられる建築の実現こそ、僕の夢でもある。
初の屋外版である今回のプロトタイプが建築に取り付くのを目にしたとき、羽根の表面の
緩いアールを滑る光は、無垢材のみが持ち得る質感と木目のゆらぎに濾過されて、優しく
僕の中のあの感覚を呼び覚ましていた。
ルーバーによって加工され、人為的に操作されているはずなのに、その陽光は「木漏れ陽」
だったかも知れない。