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燦架 The SANKA - modular bookshelf - (建築ジャーナル 2008年1月号)  Jan 01, 2008

テクスチュアはテキストと同じ語源を持っている。
それはラテン語で「織ること」を意味する "textura" である。
糸を織ればテキスタイルであり、言葉を織ればテキストであり、
そして、それらの表面に現われる「綾」がテクスチュアというわけだ。

背板と側板の文様にテキストを込めて物理的なテクスチュアをつくり、
並んだ姿はテキスタイルのように綾を成す書架モデル「燦架」。

その生い立ちから成熟のプロセスもまた、
大きな文脈(コンテキスト)の中にある。


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書物は万余の考想を刻印し、書架は胸中の全景を提示する。
書物と書架というもの、モダンデザインとモダンリビングの波及の中で、あまりにも
看過されてきた。しかし、アリストテレス文庫から五山文庫まで、王羲之の文房書斎
からオノレ・バルザックの書房に至まで、そこにはそれぞれの時空があったのである。
---------------松岡正剛(「千夜千冊・結」発足案内より抜粋)


希代の編集家、松岡正剛氏の「千夜千冊」との出会いから一つの書架モデルが生まれ
た。千夜千冊は、松岡氏が古今東西・諸学諸芸の本を巡って記し続けている前代未聞
のエッセイ/書評集である。その途方もないプロジェクトのための「特別な書棚」の
考案が求められていた。

書物と同じように棚も世界観を内包できるはず。「燦架」と名付けられたこの構造と
仕組みは、氏の選書と配架によって、集積された棚と空間から「ある世界」を表象す
ることを可能とするため、それぞれの棚が個として独立しつつも無限に自在に組み合
わせられるシステムとなっている。それは、単に思考の軌跡を枝状の繋がりや展開で
類比/再現するというよりも、知を抱いた棚自身が相互に作用し得る幾重もの様相を
つくり出し、環境を再構築する、、、そしてそこに新たな関係性を生み、新たな思考
を湧き起こすものである。

我々はこれを既存の書架の概念を超えるものと考え、書物を収めるための単なる棚で
はなく、書院の床の間のような一つのシアトリカルな空間として捉えた。専用のスタ
ンドに一架据えて書物と工芸品などを収めれば個人性の表現の場となり、必要な数架
を組み合わせて住空間に配すれば機能的な家具となり、多くを集積すれば曲直自在の
壁や塔状を成し、空間を生み構成することができる。

換言するなら、「コンテンツによってカタチを変え、カタチがコンテンツの位置づけ
を再定義することを可能にする棚」であり、そのシステムなのだ。

千夜千冊から出発した燦架は今、書物だけにとどまらず、あらゆる事物に場を提供し
空間を形成しつつある。千鳥が淵のギャラリーで美術工芸品に、横浜のカフェで生活
雑貨や企画展示に、韓国では「サランバン(舎廊房)」の思想と合体し、今後はより
広い世界へ向けて、日本発の「モノ作り」として「モノ語り」と共に発信していくこ
とになるだろう。


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