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シザさんがやってきた 〜アルヴァロ・シザ来日のレポート〜(二期倶楽部 四季だより 9月14日号)  Sep 14, 2008

御歳75歳を迎え、いまだ少年のような好奇心で世界を発見しては嬉々として、
ぐっと顔を近づけゆっくり発する言葉には、いつも冗談を差し込んでくる。
彼の人間としての温かさ、穏やかで気取りの無い人柄に接していると、
つい気軽に、シザさん、と呼んでしまいたくなる。

彼の名はアルヴァロ・シザ。実は、ポルトガルを代表する建築家であり、
建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞をはじめ数々の賞に輝き、
1988年には日本で高松宮殿下記念世界文化賞も授与された、世界の巨匠である。

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アルヴァロ・シザは「建築の詩人」と呼ばれている。
その建築は白い外観と量感の美しさが特徴的で、素朴で静謐な佇まいは確かに
一遍の詩のようだ。
けれども実際に彼の建築に触れるなら、ポエティックという言葉による評価は
安易過ぎると感じるかも知れない。
ポエムというより、もっと壮大な音楽に近いのだ。
繊細で優しいけれど強さを秘めた、ピアノソナタのような。
遊び心に満ちてしかも計算され尽くした、シンフォニアのような。

そう思うのはきっと、そこに時間を感じるからだろう。
確かな、ゆったりとした時間の流れの中で、風がそよぎ、光が移り、空間が在る。
そして自分がその空間を動くことによって、音楽はまた、静かに騒ぎ始める。

++

そのアルヴァロ・シザ(以下、失礼してシザさん)一行が
あるプロジェクトのため、日本にやってきた。

共にヨーロッパとアジアの縁(ふち)に位置するポルトガルと日本。
地球の反対側にありながら、両国には歴史的に深い縁(えん)がある。
シザさん自身も若い頃から日本の文化には高い関心を払っていたそうで、特に
「俳句は自分の作品の世界観に少なからぬ影響を与えた」のだと話してくれた。
しかし世界中でプロジェクトを抱える彼をして、
不思議なことに今まで日本で建築の仕事をする機会を持つことがなかった。
今回の来日は、彼にとって初めてとなる日本でのプロジェクトのため。
そのイメージをより深化させてもらおうと、選りすぐりの場所にご案内した。
東京から神奈川、石川を巡り、そして最終目的地である那須、二期倶楽部へ。

到着前の突然の雨で石も樹々も洗われて、那須の空気はしっとりと潤っていた。
二期倶楽部に到着したシザさんはとてもリラックスされたご様子。
二期スタッフが用意した趣向を凝らした暖かい「お迎え」に目を細め、
地の野菜をふんだんに使ったフルコースのお料理も、全て平らげてしまった。
(お酒もめっぽう強い。)
翌日は緑の映える青空の下、雨上がりの清々しい空気に満ちた散策路を巡り、
二期倶楽部各所をご案内。シザさんは好奇心に満ちた目で次々と何かを発見し、
立ち止まっては案内を質問攻めにする。本当に子供のように純粋な人だ。
キッチンガーデンでは大いに笑い、温泉、スパで体をほぐし、食事とお酒を堪能。
2日間ではあったが、心から寛いで、ゆったりとした時間を過ごして頂いた。

今回の滞在では、シザさんも大いにインスピレーションを受けたらしい。
日本固有の文化や風土、特に生活空間におけるお風呂、くつぬぎの文化。
伴う清潔な室内とその室礼。ウチとソトの距離感。地場の石、土、木という材料、
そしてそれを扱う職人の技。
日本の「善き処」がシザさんのフィルターを通るとどのような変化を起こすのか。
プロジェクトの今後がさらに楽しみになってきた。

++

実は今回の旅に出るにあたっては、お歳のこともあり体力的な心配をされていた。
しかし韓国を含めた全工程を難なくこなし、日本でさらなる英気を養って
心身ともにリフレッシュされ、むしろ元気になってお帰り頂けたのかもしれない。
帰国後、早速 eメールが届いた。
日本でのもてなしに対する感謝の言葉に面白いエピソードが添えられていた。

曰く。
ポルトガルに到着したとき、若者も含めた一行もさすがに長旅でくたくただった。
その中で一人、シザさんだけは元気で、若い仲間達に向かって言ったそうだ。
「疲れたなら(それを癒すために)もう一度日本に戻ろうか?」

こちらに顔を近づけてゆっくりと話すあの悪戯っぽい笑顔が浮かんでくるようだ。


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